いつもお世話になっております。スタジオアクトワンのエンジニア、山田です。
今回させて戴くこのお話、演技、音楽関係なく、とても有用であるお話だと思っております。
自身の行なっている上記のレッスンでも、まず一番初めに必ずチェックする項目です。
業界でも、基本中の基本だと思っておりますが、意外とやっていないところが多い印象を持ちました(特にライブハウス)ので、自身の備忘録も兼ね、こちらに記します。
マイクスタンドの立て方
まずは正解の写真から。

こちらが、しっかりと立っているマイクスタンドの一例です。
…といっても、なんの変哲もない一般によく見るただのマイクスタンドですが、
重要なポイントを全部抑えられている立て方となっているのが、上記の写真です。
チェックポイントは2つ!

①.見落としがちな根っこの部分
ここのエラーが本当に多い印象です!
音楽、演技両方共、非常に重要になる部分です。下記の画像をご覧ください。

上の画像は、しっかりと脚の固定ネジが回っていて、マイクスタンドの命とも言われる中央の支柱素材が地面へ触れていません。至って基本が踏襲されているセッティングです。
一方、下の画像ですが、中央の支柱素材が元のセッティングからなのか、つけてあるマイクの重みのせいなのかはわかりませんが、地面と接着してしまっております。
これは、どの現場でも、本来絶対にNGな事柄です。
山田の過去の記事でも何度か申し上げていますが、“音”とは、何かが”振動”して起る伝播性のある現象です。
床なんてまさに、あらゆる振動が起きる場所です。
マイク前での移動の足音、下階の物音、家電を置いているならその振動も伝わってきます。 これは自身の部屋だけの問題ではなく、建築物によっては同フロアの別の部屋の音さえ拾います。

イギリスのあるレコーディングスタジオ(右画像)だと、部屋の中に天井から吊られた部屋を作り、対策しているほど、音の世界に置いては大きいエラーとして扱っております。
他にも、音には“共振”という作用もあります。建材の素材にもよりますが、その場で音が鳴っている場合、床にもその振動が伝わります。
仮にライブハウスで悪いスタンドの立て方をしたとします。
ライブハウスは、ご経験の通り、たくさんのお客様全員に音を届かせるため、ステージ上で鳴っている音を収音、アンプリフィルターで増幅した上で大きな音としてスピーカーから放出します。
その音が共振により、密度のある精密な金属でもない限り、床が多少なりとも共振します。
その振動がマイクスタンドをダイレクトに伝ってマイクに入り、それが増幅されまたスピーカーから放出。これを何度も繰り返し…
はい、そうです。皆様カラオケで一度は経験ありますよね。
ハウリングの完成です。
レコーディングの現場では、演者方のパフォーマンスを最大限生かすことが大前提です。
ミュージシャンだったらリズムに合わせて足でリズムを採ったり…
役者/声優だったら、演技の際 気持ちが入って動いたり、限りのあるマイクに大勢の役者が音を入れるために入り乱れる、マイクワークによる足音もあります。
もちろん、要らない音なので、ノイズとして扱われます。 リテイクの原因に大きくなりうるので、絶対NGとまで強い言葉で言及します。
② マイクの角度、位置を固定するネジ
こちらも非常に見落としがちな部分。
①とは打って変わり、レコーディングの現場で多く起るミスです。
写真では、しっかりとマイクをつける側の棒(ブームと言います)が斜めに固定されています。
ここが緩むと、徐々に徐々に、ブームの角度が変わってゆきます。
右の写真を見て戴くとわかりますが、例えばアコースティックギターの収録の際。

演者は基本座って演奏をするため、マイクの位置は、ブームの角度が極端に大きくなります。
ここで②のネジがゆるまっていると、
マイクの自重により、徐々にマイクが床を向きます。
「徐々に下がる」が本当にいやらしく、演奏やパフォーマンスに集中をしている演者さん、場合によっては機械操作に意識を向けているエンジニアも、ありえない位置に落ちるまで気づかない、といったことも有りえます。
3時間かけて取ったアコースティックギター。 イントロとアウトロで全然音が違った場合どうでしょう。
録り直しです。頭から。
途中から録り直しもできません。 1曲に渡って常に音が変わり続けてるので。
①、②。共に要因としては、固定ネジの締めが甘いことが、大きなエラーの温床となります。
①は、セッティングが慌ただしい大きな会場であればあるほど音も大きく出すので、ハウリングが起こりやすく、ハウリングが起きた場合、大事故となります。
②は、後世ずっと残ってゆく記録が、本来のクオリティから大きく損なわれます。
小さな小さな小言のようですが、のちに どデカイエラーに発展する可能性を大いに含んだ小言です。
安全なマイクの接続の仕方
さて、お次はスタンドとマイクの接続の仕方。
お客様に迷惑をかけるエラーではないですが、場合によっては営業停止になりうる危険性を減らします。
<東京Love×2>の鈴菜ちゃんに協力してもらい、画像でお伝えしてゆきます。
マイクロフォンの組み立て
ここではコンデンサマイクを例に説明させていただきますが、ダイナミックマイクも基本構造/部品は同じですので、応用は簡単だと思います。
基本的に、一部のマイクを除き、スタンドとマイクロフォンは直接接続はできません。
スタンドと接続するためには、「マイクホルダー」や、「ショックマウント」が必須となります。


詳細を言うなれば、
1,ショックマウント/マイクホルダーにマイクを接続したのち、
2,マイクのついたショックマウント/マイクホルダーをスタンドに接続
という形を取ってゆきます。

構造上、ダイナミックマイクにおける”マイクホルダーは、マイクを挟む形で固定するものが多いです。
ショックマウントの多くのモデルは、これまたネジで固定するものが多いです。(安価なものだと挟む形のものも有りますが。)
原則、上記手順1、ショックマウントとマイクをつなげてから、スタンドへつける形を取った方が安全度が高いです。

例えばスタジオアクトワンのTLM103では、右図のように、マイク下部のネジ穴をショックマウントに取り付け、固定する形をとります。
今マイクのような、ネジ固定式のマイクを取り扱う時は、図のように絶対にマイクを持って取り付けを行うようにしてください。
ときたまショックマウントにマイクを乗せて、そのまま固定しようとする人がおりますが、絶対にやめましょう。
これは単純に、落とす危険性があるからです。

ダイナミックならまだしも、コンデンサはそうはいきません。
コンデンサマイクには薄い金属膜がピンと張られています。それを落としたらどうなるかなんて想像に容易いと思います。
山田は落として基盤を割った事が有りました。 音響には、あらゆる脅威を排除して臨みましょう。
ショックマウントのスタンドへの取り付け
お次は、スタンドへの取り付けです。

この時も、しっかりとマイクを持って作業を行なってください。
こちらも脅威の排除のためです。
この場合、もしもショックマウントとマイクがしっかり繋がってなかったら…」を考えます。
のちにケーブルをつけたりする際、しっかりと固定されてなかった場合落ちる可能性が有ります。 全ての時点でのチェックをしっかり行わないと、マイクが壊れる と思いましょう。

その後、これまたネジ穴にて、スタンドとショックマウントを接合します。
この時も、基本的にブームの方を回して取り付けましょう。
前述しましたが、この時点でショックマウントとマイクがしっかりついてなかった場合、マイクを回転させようとした瞬間におじゃんです。
しっかり接合したら、お次はケーブルです。

この時もしっかりマイクを持って…、最後の最後にちゃんとマイクとショックマウントが接合してるのを確認して…

グルンと一回転!! ケーブルをスタンドに巻きつけます。

コンサートのボーカルなど、曲によってマイクを手に持ったり、スタンドにはめてそのまま使ったりなど、使用する状況がコロコロ変わる場合、ケーブルの巻きつけはない方がいいです。(ボーカルさんも煩わしいだろうし)
が、そうでない場合は、最低一回は巻きつけましょう。
この作業がなぜ必要か。
カッコいいからこれまでの工程にまだエラーがあり、何らかの要因でマイクが落ちる事態になった場合、なんと、スタンドに引っかかったケーブルが、マイクが直接床にぶち当たるのを防いでくれます。
これにて、一連のマイク立てが完了!
まとめ
このように、音響の世界では、あらゆる脅威の排除から仕事が始まります。
少なくとも今記事の内容を徹底すれば、見た目にしろ、音にしろ、【素人臭さ】はなくなるんじゃないのかな、と思っております。
音にこだわりが出たなら誰でも音響エンジニア。
エンジニア。 それすなわち技術者。
細かいところは平然とクリア、その先で悩みましょう!
それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
written by Shigeru Yamada (Wize Sound)